オンライン・ハイブリッド講義のTips
非常勤講師として、コロナ禍においてオンライン講義をするようになって2年経った
自分なりにやってよかったこと、上手くいかなかったことを書き留めておく
オンラインツールは積極的に活用すると◎
自分が担当している学校はZoomで配信を行いつつ、Moodle、Manaba、Microsoft Formsなどの補助的なオンラインツールを使用させてくれている
まだ使いこなせていない機能もあるが、学生によると、私の講義はかなりオンラインツールを多用している方だそうだ
(つまりあまりこれらのツールを活用している先生方は多くはないらしい)
これらのツールを用いた講義進行は、おおむね好評であるので、ぜひ参考にしていただきたい
ここでは使うと便利な機能、好評な機能、微妙な機能の運用法を述べておく
詳細な設定の仕方はツールによって異なるので各説明書を参考にしてほしい
小テスト機能は絶対使ったほうが良い
成績をつけるために確認テストなどをするなら、各オンラインツールの小テスト機能は使った方が紙を使ったテストよりも断然楽になる
私はハイブリッド講義で対面で出席している学生にも、特段理由がない限りはオンラインにて課題を出してもらうようにしている
<オンライン小テストのメリット>
- 採点が楽になる
- ツールによっては自動採点が可能
- 記号選択問題、正誤問題であれば自動採点で全く問題がない
- ただし記述問題の採点は手動で行うしかない
- ツールによっては自動採点が可能
- 記録管理が楽になる
- 紙では学生・教員側になくすリスクがあるが、Web上の記録なら基本行方不明になったりしない
- ツールにもよるが、エクセルなどと組み合わせると提出人数や未提出者を確認しやすい
<オンライン小テストのトラブル>
- 操作ミスによる問題の設定ミス
- 小テスト機能は設定が複雑なものが多く、例えば自動採点の設定ミスで、間違った答えが正答とされてしまうなどトラブルがあったりする。プレビューや提出のシミュレーションができるツールなのであれば、できるだけ動作確認をしたほうが良い。訂正する場合は、学生に真摯に説明をすればわかってもらえる。
- 学生側の操作ミスによる未提出
- ツールによっては「提出確認ボタン」を2回3回押さないと提出が完了しないなど、操作ミスが起きやすい場合がある。その場合は学生側に注意喚起をするべきである。また、学生側から課題の提出・未提出が確認できるような設定がある場合は、活用すると良い。
スレッド機能・チャット機能の活用は「仲間がいる」感を生む
Zoomのチャット機能や、Moodle、Manabaなどのスレッド機能(2ちゃんねるの掲示板のようにテキストで会話できる機能)は、うまく使えば講師が学生の様子を把握できたり、学生のオンライン講義で感じる孤独を低減したりできる
私の講義では、通信データの削減および監視されているようなストレスを感じさせないため、講師・学生ともに基本的にはビデオをオフにして進めているが、チャットやスレッドへの書き込みによって、むしろ対面講義の時よりも気持ちの距離は近いように感じる
ただし、単にスレッドやチャットを用意して「書き込んでください」というだけでは遠慮が働いてなかなか書き込みが進まなかった(講義中に発言しにくいことと同じである)
書き込みを増やす試行錯誤によって、オンライン講義2年目を迎えるころにはだいぶ書き込みを増やすことができたので、その工夫を紹介する
<書き込みを増やす工夫>
- できれば匿名で発言できるようにする
- やはり実名で皆から見えるところで発言するのは気恥ずかしい。匿名を選べるオプションがあればそれをつけるとよいだろう(Zoomだったら個別チャットでのメッセージ送信を許可するなど)。
- ただし、匿名設定ができなくても、その他の工夫で書き込みを促進することが可能だ。
- 成績点で釣る
- 書き込みについて、講義内の発言として成績点をつける、というとはりきって書き込み始める学生もいる。また、「真面目ちゃんかよ」という他の学生からの視線をごまかせるという面もあるように思う。動機はなんであれ、書き込む人が増えれば、講義進行に有益なコメントを書き込むハードルも下がる。とはいえ、講義内容にあまりにも関係のない発言が増えすぎることを抑制するためにも、内容によって点数には差をつけると良いだろう。
- 成績を付ける場合は誰が何を発言したかの記録が残るツールを使うと良い。たとえば「パパパコメント」は発言者が表示されず気軽ではあるが、記録が残らないので成績を付けることはできない。
- 書き込みが活発になるほど、これに対して成績点を付ける作業は大変になる。たとえば、「全講義中、5回の講義をランダムに選んで、そのときのコメントに対してのみ成績をつけます」などと伝えておくと後で楽かもしれない。
- 真面目でない話題を書き込ませることによって、書き込みへのハードルを下げる
- タメ語・スラングの許可
- 書き込みにかかる時間を減らし、書き込むことのハードルを下げることができる。たまに意味不明な言葉が飛び出すが、それも含めて素の会話を楽しむと良いと思う。タメ語・スラングを許可したことでコメント欄が荒れたことは今のところない。
- 「今日のひとこと」制度
- 講義中に思いついたことを、まっさらなコメント欄に皆が見ている前で書き込むのはやはりハードルが高い。講義のはじめに、「好きな食べ物は?」など簡単に答えられる質問をし、コメント欄をある程度埋めておくことによって、書き込みへのハードルが下がる。また、画面の向こう側にたくさんの人がいることを感じられて、オンライン講義による孤独感も多少和らぐように思う。
- タメ語・スラングの許可
- 講義中にコメントを書き込めない学生への配慮
- 対面で講義に来ていてスマホの電池の残りが少ない、ひとつの画面に集中していないと講義が受けられない、書き込むのに慣れておらず時間がかかってしまう、など学生によっては思うところがあっても講義中にはコメントができないこともある。講義終了後にもコメントを送ることができるようにしておくと、よく考えられた長文の感想や質問を受け取ることができる。これらのコメントやそれにたいする返信は、オンライン資料として他の学生に紹介すると、他の学生の理解も深める手助けとなる。
アンケート機能を使った講義の改善や模擬実験
誰がどの選択肢を選んだか知られることのないアンケート機能は、講義の進め方について尋ねたり、模擬的な実験をしたりするのに役に立つ
<アンケート機能を使った心理学模擬実験の例>
例えば、以下のように行った初頭効果の心理学実験は、講義において挙手させて結果を確かめるよりもはっきりとした結果が出た(やはり、講義において周りの人の意見が見える状況だと、周囲と同調してしまうのだろう)
- 学生番号奇数・偶数によってグループ分けをする
- グループごとに異なるGIF画像(刺激)をオンライン上で閲覧するように指示する
- グループごとにアンケートで印象評価を5段階の選択肢の中から選ばせる
- 全員に見えるようにアンケート結果を提示する、グループごとに印象評価の傾向が異なることを確認する
講義の録画は学生に公開する
時間通りに見ようとしても、インターネットの通信が乱れ、動画が途切れて一部視聴できない者がいたりする
そのため、オンデマンド形式でなくても、Zoomで講義を録画しておき、公開するとよい
真面目な学生は、これを使って復習をすることもできる
面倒でなければ、YouTubeで公開するのが、早送り再生などできて学生側からして便利なようである
たいていのツールには学生が部外者に公開しないように動画を閲覧できる者を制限する機能があるので活用すると良い
グループ活動はうまくいかない
オンライン講義が始まった当初は、他の学生とコミュニケーションする機会もなくなってしまいさぞ寂しかろうと、グループ活動で学生同士がコミュニケーションする場を設けていた
しかし、グループ専用のスレッドをつくる、Zoomのブレークアウト機能を使うなどしても、グループディスカッションなどは上手くいかない印象がある
学生に尋ねてもグループ活動は不評であった
知らない者同士で遠慮してしまう、やる気がないメンバーが混じっている、などのほかにも、オンライン環境の差や、チャットなどのツールの熟達度合によってもコミュニケーションが円滑に進まなくなってしまうことが原因のようだ
もともと知り合い同士で仲の良いクラスである、ごく少人数の講義である、などであれば上手くいくかもしれないが、そうでなければ諦めたほうが無難だろう
結語
オンライン講義は不自由な印象も強いが、これを機会に用意されたオンラインツールを
学生の意見も尋ねつつ活用すれば、対面講義のころよりも活発な講義にすることもできる
充実した講義をつくることの役に立てばうれしい